鉄瓶と言えば「南部鉄器」が有名ですが、本日は「南部鉄器」よりも歴史が古く、近年ヨーロッパにおいて人気急上昇中の「山形鋳物」をご紹介させていただきます。
歴史背景の違い
江戸時代、良質な鉄が取れた南部藩では、茶の湯に造詣が深かった藩主のもと、 京都から職人を招き、その釜職人・三代小泉仁左衛門が作ったものが南部鉄器のはじまりと言われており、
南部藩主が、産業育成のため力を入れたといった背景が強いです。
「山形鋳物」はさらに歴史が古く、 平安時代の中頃に源頼義が山形を訪れた際、 馬見ヶ崎川の砂と周辺の土質が鋳物に適すると見つけたことから、 従軍した鋳物職人の一部がこの地に留まって鋳物を作ったのが始まりといわれています。
南部が鉄の産地であるのに対して、山形鋳物が生産されている銅町では、鉄が採される場所ではなく、その名前の通り「銅」が採取される場所でした。そのことからこの地で生産される製品は、山形鉄器ではなく山形鋳物という呼称になりました。
南部鉄器の代表的な紋様「アラレ紋様」
鉄瓶と聞いて最初に思い浮かぶのが絵本のぶんぶく茶釜にでてくるアラレ紋様の茶釜なのではないでしょうか。表面にブツブツとした小さな模様がついている茶釜です
この模様は「アラレ」や「トンボ」と呼ばれ、鋳型をつくるときに霰(あられ)押し棒という道具で1つずつ模様を入れていくのです。 山形鋳物と比べて、華やかで装飾的なのが特徴です。
ちなみに茶釜も鉄瓶もどちらもお湯を沸かす道具ですが、鉄瓶は持ち手と注ぎ口のあるヤカンのような形なのに対し、 茶釜は注ぎ口がなく、持ち手もないのが一般的です。
薄肉美麗な山形鋳物
山形鋳物は、薄手の生地による砂目の繊細な鋳肌と、形の正確さが特徴です。その無駄がないスッキリとしたデザインは、茶の湯の精神を引き継ぎながらも、日常の食卓においても馴染むような普遍的な美しさを備えています。
実は現代、茶道で使われる茶の湯釜の大半が山形産の鋳物なんです。近年では、フランスをはじめとする海外においても人気が出ています。
現代の暮らしに合せた「用の美」
伝統の良さを活かしながら、 ケトルであればIHに対応したり、持ち手を熱くないよう木製にする。
お茶用であれば内側をほうろう引きにするなど、 現代の暮らしにマッチした仕様とデザインの物も作られています。
沸かしたお湯から鉄分が摂取され毎日鉄分補給ができるという嬉しいメリットもあります。
現代人は、本来体に必要な鉄分を吸収しにくい身体になっている人が多いと聞きます。
毎日鉄瓶で沸かしたお湯を飲んでいると、腸内環境が整い、鉄分を吸収できる身体に戻っていく効果もあるそうですよ。
特に貧血気味の方、一度試してみてはいかがでしょうか。
鉄器のオススメポイント
■鉄瓶で沸かしたお湯はまろやかでおいしい なんとなくや、雰囲気の話ではないんです。鉄瓶から溶け出した鉄イオンが、水道水のカルキと反応し、分解するので実際に味が変わります。 緑茶や紅茶を入れた際は、お茶の渋み成分であるタンニンと鉄が反応することで渋みが少なくなり、すっきりとした味わいに変わります。
■不足しがちな鉄分を補給できます 鉄製なので、わずかに溶けだした鉄分を自然な形で摂取できます。 鉄瓶から抽出される鉄分は第二鉄イオン(二価鉄)と呼ばれる体内での吸収率が高い成分なので、 毎日鉄瓶で沸かしたお湯を飲むだけで自然な形で摂取できるのです。
■使えば使うほど育つ 使い込んでいくと白っぽく湯膜が浮き出てくるのですが、これをこすり落としてしまってはもったいない。 これは悪いことではなく、むしろ鉄瓶が育っている証拠でもあり、鉄瓶の中でミネラルを作り出すもととなります。 年月の経過した鉄瓶には古味が加わり、なんとも言えないあたたかみが生まれます。 内側が真っ白になるまで長く使い続けたいですね。
書いた人 鉄瓶育て中 藤本 太朗